嬉しい言葉と深い言葉
思いがけないことから
息子は、高校2年生になった。
先日、息子の必要品の購入でショッピングモールへ行った時のことです。
息子の必要品の買い物が終わり、ショッピングモール内を帰宅するために歩いていて、ふと宝石店のガラス張りの商品ケースに足を止めた。
最近、金の価格高騰と言う言葉を聞いた覚えがあったから、アクセサリーなどの宝飾品はどのようになっているのかを、実際に見てみたい思いが足を止めさせた理由だった。
しかし、この時の息子には、理由がわからない状況だ。
宝飾店では、足を止めてもらいやすいように通路などに近い場所にある商品は、価格も手頃な商品を置いてあることが多い。
私たちが足を止めた商品ケース内には、15800円ほどの昔で言う「プチネックレス」が並んでいた。
金が相場価格が安い時代からを知っている私には「プチネックレス」が更に小さくなって、老眼の私には、デザインさえ見えにくい小ささに驚いた。
一緒に見ていた息子は、
「見えないような小さな宝石を使う意味はあるの?」
「よーく見なければ、宝石を使っているのかさえわからないようなこれらは何なんだ?」と疑問を口にしていた。
私は、心の中で「息子よ、さすがよく気がつけている」と関心していた。
そんなタイミングで店員が近づいてきた。
「ネックレスの素材は何ですか?」と質問してみると「10金です」と答えが返ってきて、驚いた私は思わず「10金?! 10金?!」と三連続での言葉がでてしまった。
純金である24kでは、柔らかく装飾品として使えないことから、強度のために18 K にしていることは知っていたし、金の高騰が原因なのかホワイトゴールド(wk)が人気になっていた時期も知ってはいるが、10k にはどこまで金の含有量を下げるのかと驚いた。
息子は「10K?」と連呼したことで、息子は「お母さん、知らないの?」と言っていた。
店員さんが商品の案内で、側にいるから息子との話は後回しにすることにして、店内の奥の方にある高額な商品までをかなり多く、チェックしていた。
私にしてみると、時代の変化を確認するためであり、欲しいとも思っていなかったのだが、息子は「お母さん、欲しいのかな・・・」と思っていたようだ。
車に戻ると、息子が言った。
「僕が医者になって収入が安定したら、プレゼントするからね」と。
始めて聞く「僕が買ってあげる」という思い。
突然、始めて聞く嬉しい言葉に感動して、その後の私は反応をどう返せばいいのか戸惑ってしまった。
それで、上手い言葉が見つかならくて「医者になる頃には、生きているかもわからないし、しわしわの首や手に宝石は似合わないからプレゼントしてくれないくていいからね」と言ってしまって、これではせっかくの息子の思いへは暗すぎる内容だと焦り、言葉を変えようと思った。
そしたら、焦りも加わって、更に酷い言葉になってしまった。
「お母さん、まだ生きていると思うから、宝石より車椅子が欲しいな」ともう何を言っているんだと自分でも呆れるほど。
冷静な息子は「なぜ、車椅子なの?」と聞いてくる。
そこで、介護職員として働いきた経験から「老人施設では、一人一人の体の状態に合わせた車椅子が必要なんだけど、実際には体の状態に合わせた車椅子が使えないことが多いからだよ」と現実的な話した。
施設側でも車椅子は購入している、そして亡くなった人の家族がもう使わないからと寄付してくれた物を使い回しているだけだから、一人一人の状態に合わせて使うには無理があることを伝えた。
例えば、パーキンソン症状もあり、体の動きは固く、姿勢の保持も厳しい人がいるとする、この人の場合、リクライニングできる車椅子あれば、姿勢の保持が大変な時に負担を少なくしてあげるために少し倒して、足の太ももが上がり、お尻へ重心がくるような姿勢にしてあげれば、車椅子からずり落ちてしまう心配もない。
しかし、車椅子の使い回しによる適切な車椅子不足から、一般的な車椅子しか使えず、介護職員が何度も姿勢を直してあげ、それでも車椅子からずり落ちれば、介護職員の責任。
その他の実際の現状を話してみた。
それらの話を軽い口調で話したつもりだったのだが、息子は真剣な表情で返してきた言葉はこうだった。
「それは、いかんな」
「高齢者の人口の方が増えていく中で、医師として何かしらの介入をしていく必要がある、それには、どういったことが出来るのだろうか」
真剣に考えを巡らせている様子に、介護施設でしてきた様々な思いが、息子によって理解され、救われた思いになった。
息子は、私の話だけが始めて聞く話ではなく、学校や医学部講座などからも考える機会があったことで、今回の私の話から理解することに困らなかったとも言えるだろう。
その後、帰宅してから、宝飾店での本当の理由を説明し、2人で金の価格変動を調べてみた。現在は、1グラム当たり8300円ほど。
私は、1グラム1500円代の時代も知っているから、驚くほどの高騰だ。
この辺りの話は省略しよう。
そして、単純に言うなら、息子の「嬉しい言葉と深い言葉」が嬉しかった。
ただ、それだけ。
親としたら、もうそれだけで十分なのです。